文型
こんなの易しいと思われるかもしれないが、
これをおろそかにするとあとで、大変な目にあう。
8課を例にとって具体的に見てみよう。この課では形容詞が初めて出てくる。
「△△は○○です。」という構文はこの教科書の第1課ですでに出ている。ただし○○に入るのは今までは名詞だった。ここでは形容詞が入る。
ただし、形容詞は「大きい」「小さい」など、語尾が「い」で終わるものと「親切だ」「元気だ」のように「だ」で終わるものがあり、これを同時に扱う。
文型は丸暗記して、いつでもスラスラ言えるようにしておかなければならない。これが基本の基本である。「い」で終わる形容詞と「だ」で終わる形容詞を別々の時間にじっくり教えて徹底したいのだが、そんな時間的余裕はない。
例文
「い」型と「だ」型では否定の文末が全然違うので、要注意
話題の一貫性が乏しいので覚えにくい。
文型の次、2番目が例文だ。これは質問と答えの形で構成され、これも徹底暗記させて対話練習をさせる。ただ、これは量が多く、質問の文に話題の一貫性が乏しいので覚えさせるのに苦労する。
教科書では「センターは静かですか。」「タイは今暑いですか。」「その辞書はいいですか。」「日本の食べ物はどうですか。」「木村さんはどんな人ですか。」「ラオさんのかばんはどれですか。」となっている。
たとえばこれを「センターは静かですか。」「センターは今暑いですか。」「あなたの辞書はどれですか。」「その辞書はいいですか。」「センターの食べ物はどうですか。」「先生はどんな人ですか。」とすれば話題に少しは関連性ができて覚えやすい。もちろんこの課での必要項目はすべて盛り込んでいる。
とにかくこれらの例文を覚えるかどうかで会話の力の差が大きく分かれてくる。次に取り組むときには覚えやすいように例文を自分で書き換えて指導しようと思っている。
例文の練習

窓側がBさん手前がAさん
Aさんは別のBさんを探し、会話をする
例文は質問と答えの形となっているので、相手を変えて会話の形で練習させる。
教科書の例文を丸暗記させ、相手を変えて指定されら回数だけ練習させる。会話は1対1で行う。
相手を変える場合、どちらも動くと統制がとれなくなる。だから、臨時的に全員をAさんとBさんと分け、Bさんは動かないで自分の席に立って待っている。Aさん達だけが相手を変えて動かせる。Aさんは相手を見つけたら、会話を始める。一人が終わったら別のBさんを探す。一方、Bさんは一人のAさんと会話が終わったら別のAさんに分かるように手を挙げて合図する。
そうして、新しいカップルができて2回目の対話が始まる。始めに3回練習しなさいと指定していたら、3回で止める。止めた人は自分の席に座る。全員が座ったら全員3回ずつ対話が終わったということだ。
次にAさんとBさんが交代し同じ練習を繰り返す。
私は会話の状況を見て回り、個別に指導する。大体うまくいかない人は分かるので、そういう人を重点的に指導する。
例文の練習(2)
例文の練習風景 壁側、窓側がBさん
例文のヒント これをちらちら見ながら会話をする。
例文が多くて、質問文の関連性が少ないので、覚えにくいと書いたが、その対策のため、黒板にヒントになる単語を書いておく。練習中はこれをチラッと見ながら練習をしていいことにしている。
でも、これでは完全丸暗記することにはならないので、基本的な解決にはならない。やはり、研修生が完全に覚えることができるようなものにしなければならない。
黒板に書いた単語のうちパソコンという単語は教科書では「ワープロの使い方が分かりますか。」になっていた。いまどき、ワープロはないでしょう、ということで、パソコンになおして練習させた。
カチンコ
カチンコはこんなイメージだったと思う。
実際は手でたたくのでパチンコ。
あれ、何かおかしいぞ。
例文会話の練習の始めは、パチンと手をたたいて始める。
こんな具合だ。
「今から3人の人と会話してください。本番行きますよ。よーい スタート」
こういって両手をたたく。
それを合図にAさん達が一斉にBさんのところに行って会話を始める。会話の練習は楽しそうだ。出てくる単語は自由に変えて言っていいことにしている。
映画撮影の時に使うあれは何という道具だろうと思って調べたら、カチンコというのだそうだ。実際にはカットの番号を始めいろいろな情報を下の文字板(たいていは黒板になっているようだ。)のところに書き込み、あとの編集の時の手がかりにするのだそうだ。
「解散!」、パチン!
話が終わったあと、「解散!」 パチン! 滄州外経にて
カチンコで思い出した。
中国では団体行動が終わり、解散をするとき、リーダーが「解散!」(だと思う)と言うと、みんな一斉にパチンと手をたたいて、団体行動を止めて、くだけた態勢になる。これはおもしろいと思った。
滄州外経で研修生が集合しているとき日本語で号令を掛けてみてくださいといわれた。日本語の号令の意味を説明してもらってから、うまくいくだろうかと半信半疑で、「休め!」「気を付け!」「整列!」「右向け右!」などをした。さすが、軍事訓練で鍛えた研修生だ、見事にやってくれた。
そこでこれは教えていなかったが、「それではこれでおわります、解散!」といったら、見事に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、何もしなかった。
やっぱりだめか。
会話
8課は研修所の玄関先とロビーの二つの会話で構成されている。
「文型」、「例文」の次は「会話」だ。
上の写真は第8課の会話の部分である。知り合いの加藤さんが研修中のラオさんを訪ねてくる場面である。
「お元気ですか。」「元気です。」「おいしいコーヒー」「難しいですが、おもしろいです。」という形で形容詞が出てくる。
また、場面が2カ所に分かれている。研修センターの玄関先とロビーだ。場所が変わるとやりやすい。会話をするときの現場感があり、気分が変わり、実感がわくので大変よい。
空いているときには教室を二つ使ったり、廊下を使ったりして、場所を移動して会話をさせる。
会話例が単純で短いので、教科書の会話例ができるようになったら少し工夫をして、長くする。もちろん既習の構文を使う。
以下は第8課の例だが、黒い文字の部分が教科書の本文で青い文字の部分が追加したところだ。今回は各課とも思いつきでやったが、これを2段階ぐらいもうけて、会話練習をさせるときっと力が付くはずだ。
教科書の本文
加藤: やあ、ラオさん、しばらくですね。 お元気ですか。
ラオ: はい、元気です。どうぞ こちらへ。
………………………………………………………………
ラオ: コーヒーはいかがですか。
加藤: あ、どうも。いただきます。おいしいコーヒーですね。日本語の 勉強はどうですか。
ラオ: そうですね。難しいですが、 おもしろいです。
改編した会話文
加藤: やあ、ラオさん、しばらくですね。 お元気ですか。
ラオ: はい、元気です。加藤さんは?
加藤: 私も元気です。 毎日、暑いですね。
ラオ: そうですね。 ロビーは涼しいですよ。 どうぞ こちらへ。
加藤: はい、ありがとう。
………………………………………
ラオ: コーヒーと、紅茶とどちらがいいですか。
加藤: そうですね。コーヒーの方がいいですね。
ラオ: 冷たいのはいかがですか。
加藤: いいですね。
ラオ: どうぞ。
加藤: あ、どうも。いただきます。おいしいコーヒーですね。日本語の勉強はどうですか。
ラオ: そうですね。難しいですが、 おもしろいです。
もう一つ例を挙げておこう。これは第3課である。
(青い文字の部分は追加したところ)
ラオ: ちょっと すみません。
店員A: はい。
ラオ: かばん売り場はどこですか。
店員A: カバン売り場ですか。 5階です。
ラオ: あのう、〇〇〇〇はどちらですか。
店員A: あちらです。
ラオ: どうも。
………………………………………
エレベーター、エスカレーター、階段のいずれかを使って
移動する
………………………………………
店員B: いらっしゃいませ。
ラオ: このカバンはいくらですか。
店員B: 3500円です。
ラオ: こちらはいくらですか。
店員B: 〇〇〇〇円です。
ラオ: じゃ、これを下さい。
この際、2つの教室と廊下を使って会話練習をした。
はじめ、教室Aはデパートの1階で、店員Aさんがいる。教室Bは靴売り場で店員Bさんがいる。ラオさん教室Aから会話を始めるが、〇〇〇〇のところにはエレベーター、エスカレーター、階段のどれかを選ばせて言わせる。廊下にはエレベーター、エスカレーター、階段の簡単な絵を張っており、ラオさんは教室Bへ移動するときにそのどれかをタッチして行くようにしている。それから△△△△は自分で適当な値段を入れさせる。ラオさんはそのうちの安い方を買うことにしている。型どおりではなく、ちょっと考える場面を入れてみた例である。
教科書全部に渡って、体系的に整備して、サブテキストができればいいなと思っている。なかなか覚えられない人は教科書だけをしっかり覚える。余裕がある人はもう少し長いのを覚えさせるなどできるだろう。
ゴマすり
正しいゴマのスリ方
こんな事はどうでもいいのだけれど、日本語に親しむ上では
大変有効だ。
ハンサムといわれたら「ゴマすり」を教える。
「ゴマをする」の語源やゴマのすり方も教える。といっても先生や上司にどうやってゴマをするのかではなくて、ゴマすりのジェスチャーの仕方だ。
「左手をすり鉢に見立てて手のひらを上にした状態で、みぞおちの前に置きます。それから右手で小さなすりこぎを握ったように拳を握り、その上でゴリゴリと回すような仕草をします。」
言葉で言ってもこの時期の研修生にとっては何が何にやらさっぱり分からない。実際にやってみれば、ごく簡単だ。
研修生達はそれから、ほめたり、ほめられるとすぐに、すぐゴマすりのジェスチャーをするようになる。こうして、日本語に親しんでいく。
ですます体
「あ、木村さんどこへ行きますますか。」
「うちへ帰ります。吉田さんは?友達のうちへいきます。」
「ですます体」が基本形なので、話し方は丁寧だ。
日本人にとって動詞や形容詞の活用は何の問題もないが、初めて学ぶ人にとってはやっかいな問題だ。この教科書では徹底的に「ですます体」で教える。
「行く」という動詞を例にして言えば、活用する前の基本形は日本人にとっては「行く」だがこの教科書では「行きます」である。「行く」は「行きます」の変化した形でこの教科書では辞書形と呼んでいる。同じように「食べる」の基本形は「食べます」で、辞書形が「食べる」だ。形容詞も同じく白いの基本形は「白いです」で「白い」は「白いです」の辞書形だ。
はじめはやっかいだが、研修生達は「ですます体」の丁寧な言葉から入るので、言葉遣いが常に丁寧である。
教師も、なるべく研修生が分かるように話さなければならないので自然と「ですます調」になる。しかもできるだけ、教えた文型で話す癖ができてくるのではじめは非常におかしい話し方になる。
普通体

日本人にとって簡単な普通体はかなり後になって習う
かなりあと(20課)になって、普通形として「明日東京へ行きます。」を「明日東京へ行く。」、「毎日忙しいですか。」を「毎日忙しい?」と直す形で学ぶ。
普通形を学ぶと、日本語の文法体系が霧が晴れたように分かる仕組みになっている。
それからは「田中さんは明日東京へ行くと言いました。」「私は明日東京へ行くかもしれない。」「明日東京へ行くなら一緒に行きましょう。」「明日東京へ行く前にうちに来てください。」………など、あとはいくらでも日本語の世界が広がっていく。
しかし、この研修はこれを学ぶ頃にはこの研修は終わりを迎える。
ジャンケンポン
中国の黒板消しは一般にぞうきんを固く絞ったものだ
ジャンケンを教えた。
はじめにジャンケンの仕方を簡単に教えた。中国にも同じようなジャンケンがあるが、日本のジャンケンとはタイミングが違っていて、合わせるのが難しい。
だいたいできるようになったのでジャンケン大会を始めることにした。まず、全員を立たせて手を掲げて一斉に私とジャンケンをする。私に負けたものは座る。だんだん座っていって最後に残ったものが勝ちだ。
「最後まで残った人はジャンケンチャンピオンです。チャンピオンには豪華賞品をあげます。」と言って、黒板消しがわりのぞうきんの上にある置いていた電子手帳をぞうきんながら持ち上げた。
「では、始めます。」というと、みんな信じられないというような顔をしながら、ジャンケンを始めた。次第に勝ち残りが少なくなって、最後にチャンピオンが決まった。
「おめでとうございます。どうぞ前に出てきてください。」と言った。チャンピオンは「そんなに、いいですよ。」とか言いながら遠慮がちにおそるおそる出てきた。そして私は「さあ、さあ、遠慮しないで、豪華賞品です。どうぞ。」といって電子辞書と一緒に手に持っていた黒板消しのぞうきんをサッと出して渡した。
みんなはあっけにとられていたが、そのうちに大笑い。「チャンピオンにはこの賞品で黒板を拭いてもらいます。」というとまた大笑い。素直なチャンピオンはきれいに吹いてくれた。
バス停にある路線表
教室の会話ではでは「あの人は誰ですか。」「張さんです。」「じゃ、あの人は?」「〇〇さんです。」で終わるのだが、外に出ると「あの人は誰ですか。」「張さんです。」「じゃ、あの人は?」「知りません。」となる。
センターのすぐ前にバス停があり、頻繁にバスが通る。
それで屋外学習では「あの15番のバスはどこへ行きますか。」「分かりません。」となる。なぜなら、研修生のほとんどはこの街出身ではないので、知らないのだ。それで、「あのバス停へ行きましょう。」といって、いっしょにバス停の路線表で調べることになる。そしてそこで、「15番のバスは聊城駅へ行きます。」と答える。
さらにそこでは「15番のバスは聊城大学へも行きますか。」と聞くことになる。そうすると、もう一度調べて「行きません。」と答える事になる。つぎに「何番のバスが聊城大学へ行きますか。」となるので、また、別の路線表で調べて答える。このようにして、屋外で会話をすると話題がどんどん広がっていく。
これは単なる一つの例だ。
屋外学習(3)
研修生達の周りに通行人が集まってくるはずだったが
屋外で会話実習をすると話題が広がる以外にもう一つのメリットがある。
人通りのあるところで、大の大人が変な言葉で、何か話していると、通行人は当然注目する。そして、周りに集まってくるだろう。それが、ねらいだ。
彼らはスラスラとは日本語ができないので、日本で街に出たときに当然注目を浴びることになる。そんな中でも日本語を使わなければならない。そんなときのための準備だと思って、わざわざ、人通りのある屋外で授業をするのだ。
ところが、これは全く誤算であった。研修生達が会話をしているとき、当然私もそばで指示している。そうするとそこでは年齢も違うし立場も違う私が一番目立つのだ。だから、通行人達の興味は私に集中してしまうのだ。通行人達は私のあとを着いてくるようにぞろぞろ集まってきたのだ。
「参った。」

















