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「 私は張です。張高明です。」 「ダメ!」
急に話があったので、私にはすでに予定が入っており、遅れて赴任することになった。すでに研修生は1週間ほど前からセンターに入り、勉強を始めていた。
ひらがなカタカナはすでに習い、第1課もすでに習い始めている。
文法事項はまだほとんどダメだが、すでに、パターンにはめ込んだ自己紹介はできる。
当たり前のことだが、自己紹介では自分の名前を言う。
ところが、中国人が言うと、その名前が、普通、日本人には聞き取れない。だから、私は私とコンビを組む中国人徳先生と相談して 自分の名前の言い方を決めた。つまり、中国でよく使う方式で自分の名前を言うようにしたのだ。
中国語ではよく「我姓張。叫張高明。」のように言う。
これは、「私は張です。張高明と、いいます。」とでも言う意味である。すなわち、姓と姓名を繰り返して言うやり方である。
名前が分からないと「えっ。」と聞き返さなければならない。これは、相手にとってはあんまり気持ちがいいものではない。そればかりか、そうでなくても、ドキドキしている研修生にとっては、さらにドギマギする結果になる。
だから、「私は張です。張高明です。」のように言わせるのだ。
私は中国式の言い方で、繰り返し言い、ほとんど日本人と変わらないぐらいにはっきり言えるように訓練する。これは訓練意外に何ものでもない。その訓練は毎時間、1回ずつ言わせて、合格すれば座らせる。 「ダメ!」といわれた者はもう1回まわってきた時にまた言う。
初めのうちはほとんどうまく言えないので、時間がかかるが、そのうち、だんだん言えるようになる。完全に言えるようになったら、もう言わせないが、大体言えるようになるには10日ぐらいかかる。しかし、全員がきちんと言えるようになるのには1ヶ月ぐらいかかる。
つまらないことに時間をかけるようだが、これが全体の発音指導にじわじわと効いてくるのだ。
緊張の面もちの研修生達
赴任日が土曜日であったため、まずは対面だけすることになった。教室には15人の若者がいて、緊張した面持ちで私を待っていた。10日ばかり前に入所して練習していた自己紹介で私を迎えてくれた。
職種は機械加工、食品加工、板金等いろいろで、年齢は平均で20歳ぐらい。文法も何も分からない中で、決まり切ったパターンに当てはめた自己紹介であるが、たどたどしい中でのその一途さが、伝わってくる。
そこには、いつもの希望に満ちた中国人若者の顔があった。
私はこの顔に惹かれ、中国に日本語を教えに来ようというエネルギーになるのである。
ところが、15人の研修生のうちの一人は4〜5日後には家に帰された。
この研修生に対する研修が中止になったのである。アメリカを発端とする景気の悪化が日本では派遣雇用者やはたまた正規雇用者の 解雇問題にまで、発展しているが、さらにその下で彼らを支える中国人研修生達の派遣にも深い影を落としているようだ。


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